紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  「害虫防除の常識」    (目次へ)

    3.害虫の発生状況の調査法と予測法

     4) 害虫の発育と有効積算温度の法則

 昆虫(害虫)は変温動物であるので、外部環境の温度によって体温が変化する。そして、発育の速さ(発育速度)は発育適温の範囲では温度に比例する。しかし、温度が発育適温域を超えて下がると次第に発育速度の低下は緩慢になる。発育速度が温度に比例している区間(発育適温域)の傾きをそのまま低温側に延長(外挿)し、X軸(温度軸)と交わる点の温度を発育零点(T0)という。また、温度が発育適温域を超えて高温になった場合の発育速度は、一定温度を過ぎると急速に遅くなり(図2B)、さらに高温になると発育が停止する(発育速度がゼロとなる)。昆虫の体温を測定するのは難しいので、一般的に気温を代わりに用いることが多い。
 
 面白いことに、一定温度で昆虫を飼育すると、昆虫の発育期間(日数;D、例えば20日間)と有効温量(飼育温度(℃)から発育零点の温度を引いた値、例えば15℃)とを掛けた値は一定になり、この値を有効積算温度(K、この場合は300日度)という(単位は日度)。この関係は式1で表わされる。

  K=D×(T-T0) ・・・・式1  

 ここで、Kは有効積算温度、Dは発育期間、Tは温度、T0は発育零点、(T-T0)は有効温量。
 このような式で表わされる昆虫の発育と温度との関係を有効積算温度の法則という。

 発生時期の予測は、卵から成虫までの期間、卵期間、幼虫期間、さなぎ期間など、それぞれの発育段階で発育零点と有効積算温度が調べられていれば、それぞれの発育段階で行うことができる。

 式1は変形して次のようにも書ける。

 1/D=1/K×T−T0/K ・・・・式2  

 ここで、1/Dは温度T℃の時の発育速度、1/KとT0/Kは定数であり、Tは毎日の温度。
 この式から、発育速度(1/D)は、温度(T)に比例することが分かる。

 このように、温度と発育速度との関係は比例関係にあるので、毎日の温度(平均気温など)が分かれば、害虫が次にいつ発生するか(発生時期)を予測できる。すなわち、毎日の最高気温と最低気温の平均を1日の有効温量として式2に入れて毎日積算して(加えて)いき、1/Dの合計値が1に達したら予測しようとする発育段階が完了したことになる。
 
 このことが成り立つのは、昆虫の成長が温度に比例する温度域、すなわち、最高・最低気温が通常15℃から30℃ぐらいの発育に適した温度域内である。15℃以下あるいは30℃以上の温度下での発育速度は、発育適温域での比例関係からはずれる傾向を示す場合が多い(図2B)。

 式2は、発育零点と有効積算温度が飼育実験によって明らかにされていれば、使えることができる。

 いろいろな昆虫、ダニ、線虫害虫の発育零点と有効積算温度のリストが下記の文献(農環研ホームページ)に掲載されている。

 日本産昆虫、ダニ、線虫の発育零点と有効積算温度(農業環境技術研究所資料:桐谷、1997)
 
 1日の最高、あるいは、最低気温が発育遅延する温度域や発育停止する温度域にかかる場合には、平均値を用いる方法では発生時期の予測日がずれてしまう。特に、春や初夏の低温時にこのことが生じやすい。この場合には、1日の最高、最低気温を用いて、三角法で予測したり、余弦(COS:コサイン)曲線で表して1時間ごとの温度を推定したり(修正余弦法)、アメダス気象データから1時間ごとの気温を読み取って1時間ごとの有効温量を求めて予測する方法などがあるが、これらはコンピュータを用いて行うことになる。 
 
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